能登の未来

FUTURE

海路を活用した経済活動の振興と高等教育機関の設置― 能登半島の未来像に関する一考察―

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投稿者

大森寛史

 まず、能登半島とはどのような歴史的・地理的特徴を有している地域であるのかを確認する必要がある。能登の歴史は古く、縄文時代から今日に至るまで継続して人間が生活していたという国内でも珍しい地域である。三方を海に囲まれているという地形を生かし、能登の人びとはこれまで漁業や海路を通じた商業に勤しんできた。海を介して朝鮮半島や中国、蝦夷地(北海道)、ロシアとの交流も古くから盛んに行われ、江戸期から明治期にかけては、北前船が港町を発展させた。また、長い間半島ではなく島だと思われてきた能登は、日本の歴史とは一線を画し、独自の伝統文化や風習を築き上げてきたのである。
 現在、能登半島は人口減少によってあらゆる文化が存続の危機に瀕している。奥能登が日本一の過疎地域といわれるようになった原因はいくつかの側面で論じることができるが、筆者は「陸路の発達と海路の衰退」、そして「高等教育機関の不在」という点に着目している。「陸路の発達」とは具体的には鉄道とバイパス道路の開通である。能登と金沢以南を結ぶ鉄道・道路網は能登の発展の象徴でもあり、人々の暮らしを確実に豊かにした。一方で、陸路を通じた経済競争では能登半島は常に不利な立場に置かれ、多くの労働力が流出した。また、高等教育機関が存在しないことも若年層の流出の一因である。
 ここからは、将来の能登半島について私見を述べる。100年後の未来像といっても突飛な発想は必要ではなく、上で述べた能登半島の歴史の文脈の中で考察することが肝要である。筆者が提唱するのは、「海路を活用した漁業、商業の振興」と「漁業や水産業、農業など能登の自然地理に直結した分野の研究を担う(大学院など)高等教育機関の誘致・設置」である。血液が絶えず身体に酸素と栄養を送り込むように、地域には絶えず人とお金が流れてこなければならない。血行不良を引き起こさないためには、常に若い人材が流入する仕組みが必要である。
 今回の能登半島地震では数多くの道路が崩壊し、海路や空路を活用した支援が行われた。時代が変わっても海と能登の人々の暮らしは切り離すことのできない深い縁に結ばれている。能登半島は、海に囲まれているという“利点”を生かし、経済活動及び教育活動を振興させることで、この困難を乗り越えることができると確信している。
 以上より、先人たちが守ってきた特性を正確に理解し活用することが、向こう100年それ以降の能登の繁栄を築くために不可欠である。能登地域の課題解決は、現代日本の課題解決に直結する。「最先端」の課題に直面する地域として、能登は日本の課題解決のモデルケースとなる使命を担っている。
 長い歴史の中で、能登の人々は幾度となく自然災害を乗り越え、発展してきたという事実がある。能登の伝統と遺伝子を受け継ぐ私たちは、先人の知恵に学ぶことで今回の災害を必ず乗り越えられる。

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